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sec.61 - 灰色ビー玉

2018/06/14 (Thu) 00:13:55

 移動要塞ディアボロス内、栗原が自分用に開設したオフィス。魔術師イワトビは何故か、そんな栗原の傍に立たされていた。

 ネット上では、コード0を名乗る者が犯行声明を出しており、砂漠の町スコーピオンで行われるレッドアップルのライブを襲撃するという。
 また、レッドアップルの側が砂漠の町でのライブの日程をずらした事もその犯行声明の信憑性を増していたのであった。


 栗原は現状を見て語る。
 「こうして大々的に名乗り上げているのは、襲撃の成功が目的というより、コード0がレッドアップルを襲撃しようとしている事を世間に知らしめるのが目的のようね。」
 魔術師が黙って聞いていたが、何かを思いついたように言った。
 「このコード0が偽者だと言えそうな証拠は?」
 栗原は言った。
 「ないわね。仮にあったら小国が公国に疑われた時に使っているわ。」
 ということは、このコード0は世間的には暫定で本物ということだ。だが、現時点では悪質なデマという領域を出ない。実害を生じて初めて倒すべき敵となるのだろう。
 レッドアップルのライブを襲撃する。話題性も実害性も十分ある。
 イワトビは呟いた。
 「被害を完全に封じてギリギリって所だな。」
 栗原も頷いてから言った。
 「失敗しても彼らはリベリオンズチックと繋がりがあったことにされるでしょう。」
 実際には背後にいるのは究極帝国であるが、今回はその事を一切匂わせずに事を運んでいるものと思われる。
 仮に何らかの証拠があがっているなら、情報部が何かしら連絡してくるはずだ。

 栗原は問う。
 「今回のことで何が起こるか読めたかしら。」
 魔術師は答えた。
 「空中要塞ヘカトンケイルの移動。襲撃の成否はその移動距離を決めることになる。」
 究極帝国に三つ存在するヘカトンケイルのうちの一つが移動してくるだろうとの事。
 栗原は微笑しつつ言った。
 「一応、合格点をあげるわ。では、どうなるのが私たちにとって一番幸いかしらね。」
 その問いの答えはすぐには出ない。
 何せ、失敗しても成功してもいずれにせよ要塞は動く。だが、レッドアップルたちのライブはやるからには成功させるべきだ。

 魔術師は告げた。
 「ヘカトンケイルには、こちらの地方で動きを活発化させつつあるリベリオンズチックへの牽制のために動いてもらうとしよう。」
 コード0制圧のために、同要塞が真っ直ぐこちらを目指してやって来る早期決戦パターンは不採用。
 理由としては、こちらの準備が不足している点。起こり得るかもしれない第二次決戦に挑むには時期尚早だ。


 選ばれたルートは、一見安全策に見えるが、テロリストに狙われたレッドアップルのライブにて、一人の怪我人も出さないという虫のいい結果を捻出しなければならないという選択肢でもある。

 計画の前倒しくらいは当然必要だ。 


 ユキコを連れた和装の男、日小五郎がサラダス公国国主ブリュンヒルデに謁見する。
 日小五郎が言った。
 「…というわけで、早急に事を運ばなければなりませぬが、大丈夫ですか。」
 ブリュンヒルデは玉座で頬杖をつきながら言った。
 「一度だ。究極帝国に返却することになっている移動要塞を国内を素通りさせて波風が立たないで済ませられる回数が、それだ。」
 側近のオールドが国主に代わり続ける。
 「行きと帰り、計二回もナイトメアを素通りするとなると、国を他国の好きなようにさせないという講和の条件に反します。難しいでしょうな。」
 日小五郎は少し考えてから言った。
 「では、こうするのはどうでしょうか。」


 後日。
 キラリの森、入り口付近に待機していた移動要塞がこつぜんと姿を消した。

 その間、城塞都市ナイトメアの両門は閉じたまま微動だにしなかったという。

 姿を消した移動要塞は門の反対側に位置する砂漠の町スコーピオンを目指すレールの上にあった。
 移動要塞は砂漠の町へ向かい、一般公開用に増設したスペースを使ってレッドアップルのライブを開催する予定である。
 何せ、腐っても要塞だ。
 砂漠の町でそのままライブをやるより安全を確保しやすいという算段である。

sec.62 - 灰色ビー玉

2018/06/14 (Thu) 11:15:38

 翌朝。
 日の出と共に移動中の魔獣車に強化スーツが届けられた。
 驚いたことに全員分用意されていた。
 ドートン・クヲンは普段着の下に着てきた強化スーツを指し示しながら言った。
 「一応、大丈夫だとは思っていたが一晩自分に装着してみて具合を見た。結果は見ての通りだ。」
 キラリが手を上げた。
 「質問、そのスーツってそうやって服の下に着て使うのが正しいの?」
 ドートンは取り外してある各種部品を手に取りながら言った。
 「流石にヘルメットやブレイサー、レッグガードを装着しながらの日常生活は無理があるようだ。適応している奴もいるがナ。」
 誰とは言わないがマックスの事だろう。
 ドートンは各種部品を装備しながら解説する。
 「こうして、着ている服次第だが、各種装備も問題なく装着できるはずだ。最後に…。」
 彼が被ったヘルメットが透けて、顔だけは見えるようになった。
 ドートンは言った。
 「希望があればヘルメットのデザインはこちらで微調整するが、個人を認識しやすいようにヘルメットを透明にできる。」
 ラグナが傍に寄ってきたのでドートンは屈んだ。ラグナの手が見えなくなっている彼のヘルメットに触れた。
 少年は感嘆した。
 「まるで透明になった時のエクレアさんだね。」
 ドートンは立ち上がると言った。
 「左様。幻想帯内で使用できる機能は全て魔術かそれに類似した超自然的な技術を採用している。」
 ロナが言った。
 「超科学、もしくは超魔術か。」
 世間一般ではそう言われている。
 この世に存在するあらゆる技術を取り入れ、一つのテクノロジーとして集約したもの。
 あらゆる分野に明るくなくては実現不可能なので、長命種か、大容量AIのような存在でないと実現は不可能とされている。

 ドートン・クヲンの天才具合は承知したが、各自質問があるようで、まずレッドアップルが手を上げた。
 「しつもーん、これって一般人も装着して大丈夫なの?大丈夫だったら万が一に備えてバンドのメンバや、スタッフに装備してもらいたいんだけど。」
 ドートンは頷いてから言った。
 「体力的には一般人とそう変わらん僕が問題なく着こなせている。その点は問題ない。導入コストについてだが…。」
 ドートンとレッドアップルが膝を付き合わせて相談を始めたので代わってマックスが質問に答えるようだ。
 カクタスキッドが手を上げた。
 「サボテン男の私の分も用意されている事に驚きを禁じ得ないが、これを着た状態で魔物としての機能は十分に発揮できるのだろうか。」
 マックスは首を縦に振った。
 スライムが身を乗り出しながら言った。
 「ちょっと待って。つまり、私がどんな姿になってもスーツの方が柔軟に対応してくれるってことですよね、それ。」
 マックスは腕を組むと言った。
 「そこが博士がマッドなサイエンティストだと言われるゆえんだ。まるで予めこうなることを予期していたかのように、あらゆる可能性を追求している。」
 フェンリルがヘルメットを玩びながら言った。
 「だとしたら不思議スーツ過ぎるぜ。」
 アルカードが呟く。
 「端的に言って神。」
 日光や流水が効かなくなるので。

 説明もそこそこに各自個室で強化スーツを着てくる者がポツポツと現れ始めた。
 一番最初に着てきたエクレアが普段着の上からスーツの具合を確認する。
 キラリがそんなエクレアの肩に手を置きながら言った。
 「何で上に服を着てきちゃうの?ピッチリスーツを着たエクレアちゃん、皆が期待しているのよ!」
 周りから巻き込むなと声が出る。
 いくらキラリが悔しがった所で、エクレアがいくら流されやすいと言っても、流石にこの場で服は脱がない。

 ジロウも強化スーツを着てきた。
 室内なので、軽くステップを刻んだりジャブを空中に繰り出すぐらいだが。
 「断然、体が軽いぜ。」
 と、自己申告するぐらいには強化されたようだ。その様子を見ていたドートンは無言で頷いた。

 レッドアップルとの相談も終わってドートンが再び解説を始める。
 「ヘルメットやブレイサー、レッグガードにはそれぞれ様々な機能がついている。そのうち、通信機能については機械に頼る所が大きいので、幻想帯内では使用不可能だ。」

 ここからは、説明しても覚えきれないだろうからと希望者だけを残して解散となった。
 用意されていたスーツは全員分はけた。

sec.63 - 灰色ビー玉

2018/06/15 (Fri) 00:40:15

 日が昇りきる頃、魔獣車は砂漠の町スコーピオンに到着した。
 後で要塞内に移動させるとして、今はいつもの待機場に魔獣車を留め置く。

 エクレアが真っ先に魔獣車の外へと出る。
 「それじゃ、町長にライブ会場の変更を知らせてくる。」
 スライムが続く。
 「お供します。」

 次にアルカードが恐る恐る外へと出ようとする。
 まず手先を日光にさらす、問題ない。次に足先を日光にさらす、問題ない。
 後ろを見ると、万が一のためにロナが日傘を持って待機している。
 ロナが言った。
 「傘を差すだけで日光は平気なのだから、そんなにビビることはないのではないかァ?」
 アルカードは言った。
 「太陽をなめてはいけない。」

 等のやり取りをしている二人の横を抜けて弟子とミイラが砂漠の町に足をつけた。
 弟子が言った。
 「まずは観光がてら町を見て回るとするか。」
 そう言いながら町中へ歩み始める。
 ミイラはそんな彼について行きながら言った。
 「あの、私の格好、変ではありませんでしょうか?」
 彼女はいつも身に纏っている包帯の下に強化スーツを着ていた。
 弟子は言った。
 「包帯はこの町でも目を引くのではないだろうか。」
 ミイラは胸元に手を持っていくと言った。
 「私、唯一のミイラ要素ですので…。」
 弟子は後ろに視線をやると言った。
 「ドートン博士がまさか師匠の分も強化スーツを用意しているとは思わなかった。」
 ミイラは少し驚きつつ言った。
 「お師匠様もスーツを着るのですか?」
 弟子は視線を戻すと首を傾げた。
 「わからん。」
 ミイラは言った。
 「弟子さんと、お師匠様はどういった間柄なのでしょうか。」
 弟子は言った。
 「名乗りの通り、弟子と師匠だが?」
 ミイラは少し頬を染めて言った。
 「いえ、それだけ常に肌身離さず一緒にいるので只ならぬ仲なのでは…と。」
 弟子は頷きながら言った。
 「ああ、そう思われても仕方ないかな。だが、師匠は既に夫子持ちの人妻だ。」
 ミイラは今度こそ驚いた。
 「ご結婚なされてるんですか!?」
 弟子は顔を近づけると声量を落として言った。
 「師匠曰く、自分は死んだことになっている。今は草葉の陰から見守っているそうだ。」
 ミイラは感心して言った。
 「色々と大変なのですね。」

 ようやく魔獣車の中から出たアルカードが太陽の輝く空を見上げた。
 久しく見たことのない光景のように思える。少なくとも、アルカードになってからは一度も目にしたことはない。
 ロナが日傘を片手に持ちながら言った。
 「どうやら、こいつはもう必要ないようだなァ。」
 アルカードはそんなロナの方を見た。
 彼女は彼の手から日傘を受け取るとそれを差した。
 アルカードは言った。
 「吸血鬼要素は必要。」
 ロナはそんな彼女を見ながら苦笑いした。

 スライムを連れたエクレアが、町長の勤務している町役場から出てくる。
 エクレアは言った。
 「レッドアップルのライブは地域の振興も兼ねてるから、会場を要塞内に変えるのには難色を示したね。」
 スライムは言った。
 「流石に観客の安全をちらつかせたら首を縦に振らざるおえないみたいでしたけどね。」
 町の方へ、会場の変更を連絡はした。
 後はレッドアップル側からお客さんに会場の変更を周知するだけだ。
 日程を繰り下げたおかげで、この町でのライブも開催には漕ぎ着けられそうだ。

 残る問題はこの町に息を潜めているという、コード0を名乗るテロリストへの対処である。


 薄暗い路地裏。
 刀を抱えた赤い目をした男と、黒いピルボックス帽と同色のマントを羽織った男が控えていた。
 そこへ、百戦錬磨の気配を漂わせた一団が歩み寄っていく。
 その中の一人が言った。
 「お早いご到着ですなぁ。そちらさんの名前は?」
 黒い服装の男が前に踏み出すと告げた。
 「俺がコード0だ。文句がある奴は前に出るがいい。」
 後で到着した一団から笑い声があがる。
 おそらくリーダー格と思われる男が言った。
 「コード0とはすなわち、既にそこに居た者の名。つまりは最強の代名詞。そんなひょろっちい見た目で名乗る名前ではない。」
 赤目の男が刀を手に取った。
 男は自らをコード0だと名乗った男の隣に立つと告げた。
 「俺の名前はスライド。今回の依頼、ゼロっさんがコード0で何か問題でも?」
 集団がざわつく。
 人々から半魔だ、などの呟きが聞こえてくる。
 スライドは頬を掻きながら思った。
 (そういうデザインってだけだがな…。)
 リーダーが言った。
 「その目と刀が飾りじゃないことを祈るぜ。お前がコード0でいい。だが、こちらの指示には従ってもらうぞ。」
 宣言通りコード0という事になった男は踵を返すと、壁を背にしてそのまま押し黙った。
 スライドは一団にペコペコ謝りながら言った。
 「すいません。ゼロっさん、見ての通りコミュニケーション能力に欠けてまして…。」
 一度、壁に背をつけた男はつかつかとスライドに歩み寄ると軽く裏拳で男の頭を殴った。
 スライドの頭が小さなクレーターを作る勢いで地面にめり込んだ。
 コード0は静かに呟いた。
 「誰がコミュ障だ。」
 彼は再び踵を反して元の壁際に戻って行った。
 スライドはめり込んでいた頭を引き抜くと言った。
 「あたた…何も殴るこたぁないでしょ。」
 一団のリーダーは額に冷や汗をかきながら言った。
 「あいつへ何か指示するときはお前に連絡するから…。」

sec.64 - 灰色ビー玉

2018/06/15 (Fri) 15:26:16

 移動要塞が大陸横断鉄道発着駅に到着した。
 レッドアップルとそのスタッフは数日後を予定していたライブの開催場所を移動要塞内に変更する旨を町の中心街で宣伝して回っている。


 多数のヌメが砂漠の町を偵察して回り、怪しげな集団がいないか探して回っている。
 ユキコから、それらしい集団を見かけたが、すぐに解散してしまったという報告が上がった。

 カクタスキッドは久々に衛兵と共に、町の平和を守るためにパトロールへと出た。
 もはや大人気バンドと言って差し支えないレッドアップルたちの公演が迫り、町の人口が通常時の数倍に膨れ上がり、それと共に各種トラブルが頻発しているらしい。

 衛兵組織から正式にアルバトロス騎士団へ協力要請も出され、手の空いている者からご近所の安全を見守りに出ていった。


 Xデー前日。
 再び例の路地裏に集うテロリスト。
 赤目の男、スライドが言った。
 「随分と減ったな…。」
 人数が目減りした一団のリーダーは言った。
 「神隠しにあったタカシから、故郷のかーちゃんに親孝行できて毎日充実している云々と書かれた手紙が送られてきた。浮かれた仲間が酒場で飲んで暴れて、カクタスキッドに捕まった。計画実行の日までに留置所から出られるとは思えん…。」
 それ以外にも、まずは連れていたリザードマンが野生化して失踪。
 くっ殺された挙げ句にデュラハンと化した女騎士は砂漠の熱に当てられてダウン、現在は最寄の宿屋でコード0が看病中。
 鬼なのにお酒がまったく飲めないオーガは、カクタスキッドに捕まった面々に酒場に連れてかれ、よせばいいものを酒の瓶をらっぱ飲みした影響で急性アルコール中毒となり、駆けつけた弟子とミイラの助けもあって一命を取り纏め、砂漠の町の病院で窓の外を眺めている。
 その時に飲んだお酒の銘柄は、砂漠の町名物となっている蠍の一刺しである。
 スライドは改めて言った。
 「お前ら、やる気あるの?」

 結局、残存戦力で要塞の攻略など到底不可能だと判断した一団のリーダーは契約を破棄、といっても報酬は前払いだったので、お金はもらったが依頼は達成せずに町を去った。
 計画が成功しようが失敗しようが、後の扱いは捨て駒だったろうからある意味正しい判断ではある。


 結局、そんな裏事情もあってか、あれだけネットで大々的に宣伝したコード0がレッドアップルのライブを襲撃するという情報は、世間では悪質なデマという結論に至った。
 結果的に誰も暴れもしていないので、究極帝国はリベリオンズチックが関与している等と騒ぎようもなく、空中要塞ヘカトンケイルは一ミリも動かなかった。


 ライブ会場の変更や開催日時が繰り下げられるというトラブルに見舞われたものの、こうして無事に砂漠の町での公演も行われたのであった。

 意味ありげに姿を現したコード0とスライドは、砂漠の町に取り残されたデュラハン、オーガ、戻ってきたリザードマンと共に要塞内一般公開エリアに増設されたライブビューイングでレッドアップルバンドのライブを観賞した。

 ほんとに何しにきたんだこいつら。

sec.65 - 灰色ビー玉

2018/06/16 (Sat) 00:47:23

 砂漠の町での公演を終え、次に向かうは城壁に守られた都市ナイトメア。

 再び同都市の国主ブリュンヒルデ謁見の間。
 やって来ているのはジャッジ・ザ・アルバトロス。
 その傍らには少女ファティマが控え、同少女を守るように四枚羽のついた球体アイギスが空中に止まり、少女はまるでぬいぐるみのように聖獣ユニーを抱き抱えていた。

 ジャッジは言った。
 「国主様は以前申されましたな。国を素通りできるのは一回だけであると。では、前回同様避けて通りますので。」
 ブリュンヒルデは身を乗り出すように上体を傾け、片手のひらを見せながら言った。
 「待て。以前とは条件が違う。レッドアップルを乗せた要塞。他国同様、必ずや我が国に潤いをもたらすものだ。」
 ジャッジとオールドは同時に言った。
 「「虫のいい話ですな。」」
 ビクリとブリュンヒルデの体が跳ね上がる。
 オールドは顎に手を添えながら言った。
 「相手が苦しい時に手を差し出さず、蜜を味わえるとわかった時だけは赤いバラを差し出す。それでは信頼は勝ち得ませぬぞ。」
 ブリュンヒルデはわたわたしながら言った。
 「ずるいぞオールド!お前だってあの時は私の意見に賛同気味であっただろう…?」
 オールドは頷くと言った。
 「まっこと虫のいい話ですが、人間しいてはそれが作り上げる国とは元来そういうもの。国主殿の赤いバラを賜った貴方ならご理解頂けるかと…。」
 ジャッジは腕を組むと言った。
 「真実の愛ってんなら仕方ないね。」

 国主にナイトメアでのライブ計画書を差し出す。
 ブリュンヒルデは資料に目を通すと言った。
 「…なるほど。移動とライブを同時にやってしまうわけだな。これなら国民感情もそう逆撫ではすまい。よろしい、関係省庁には私から連絡しておこう…所で。」
 ブリュンヒルデはそう言いながら片手を差し出してきた。
 ジャッジは首を傾げる。
 彼女はもう一度、片手を差し出しながら言った。
 「わかっておろう。例の参加チケット!」
 ジャッジは腰に手を添えながら言った。
 「そこまでやったら賄賂だろうが。流石にスキャンダルになるわい。」
 オールドはブリュンヒルデにそっと耳打ちした。彼の懐には例のチケットが見えた。
 彼女は玉座でふんぞり返ると言った。
 「素直じゃないわね、貴方も。」
 ブリュンヒルデが立場を考えなさすぎとも言える。


 砂漠の町ではテロ騒ぎもあって日程を繰り下げたのもあり、城壁都市での公演は予定通りスムーズに行いたい。レッドアップルバンドとそれを支えるスタッフの本音だった。
 移動要塞ディアボロスは城塞都市ナイトメアの大門前に待機していた。

 同要塞、天井甲板。
 ナイトメアでのライブはここで行われる、野外ライブの予定。会場の設営はもう始まっている。
 臨時で雇われたスタッフとして、テロリストとして乗り込んできたメンバーが会場の設営を手伝っていた。
 コード0は念動力のような力で物の重さに関係なく物体を浮かせて移動させられるので現場で重宝がられた。
 スタッフの一人が声をあげる。
 「コード0さん、こっち手伝ってー。」
 「うむ。」
 彼は一つ返事で空中を滑るように移動して呼ばれた方へ向かう。

 ピンク色のリザードマンも今回は野生に帰らずに真面目に設営の手伝いをしている。
 スタッフがリザードマンに指示する。
 「こっちの荷物、B4に持っていってくれる?わかる?B4。」
 リザードマンは指示された荷物を抱えると、トコトコとB4を目指して歩いて行った。
 スタッフが首を傾げながら言った。
 「リザードマンというより、着ぐるみを着てる人間に見えるんだけど…。」
 あながち間違ってはいなかった。

 鬼は元来力持ちなのでやはり役に立つようだ。すっかり一部のスタッフにオーガ姐さんと呼ばれて慕われている。打ち上げの席などでうっかり酒を飲まされなければ良いが。
 オーガが一仕事終えて戻ると、黒い鎧に身を包んだデュラハンが救護テントで倒れていた。
 オーガは呆れながら言った。
 「なんだいだらしないねぇ。それでもデュラハンかってくらい体力ないね、アンタ。」
 デュラハンの額には冷却シートが貼られていた。
 彼女は不満げに言った。
 「あのね、前にも言いましたけど、私、宮廷暮らしをしていた王族ですのよ?いくら体が魔物化したからって元から鍛えてないものが、簡単に身につくわけないでしょう。」
 オーガは肩を竦めながら言った。
 「まぁたそのホラかい?そんな事になってたら今頃大事件だろうし、アンタの言う王女様はいまだに健在だよ。」
 デュラハンは倒れていた体を起こし、ジェスチャーを交えて訴えた。
 「ですから、あちらの方が影武者だと何度も申し上げていますでしょう?貴方、鬼なのに嘘か真かも判別が…ああ!お待ちなさい!」
 オーガは去り際に手を振りながら言った。
 「そこまで元気なら大丈夫だね。もう少し体を休めたら仕事に戻りなよ。」
 入れ替わりに、紙コップに清涼飲料水を汲んできたスライドがやって来た。
 彼はデュラハンにコップを差し出しながら言った。
 「ほいよ。お姫様、ご注文のお水。」
 「わーい。」
 デュラハンは離れている首に水を飲ませた。
 彼女は言った。
 「五臓六腑に染み渡るわぁ…。」
 スライドはデュラハンの隣に座ると言った。
 「ま、無理はしなさんな。誰にだって得手不得手はある。」
 デュラハンは思うところがあるのか声のトーンを落としながら言った。
 「私の配下に貴方がいたら、このような悲劇も起こらなかったでしょうね…。」
 スライドは傍にあったタオルでデュラハンの首を優しく拭った。
 思わず彼女の口から声が漏れる。
 「ん…。」
 スライドは空を見上げて言った。
 「過ぎたことです…。」
 デュラハンは言った。
 「私にも、スタッフさんが装備している強化スーツがあれば今よりもう少し皆の役に立てますのに…。」
 スライドは言った。
 「あれは、正式メンバーに数えられたスタッフに与えられるもので、臨時の俺たちには…。」

 デュラハンは首を正しい位置にセットすると立ち上がって言った。
 「休憩もしましたし、もう一頑張りしましょ!」
 スライドも同様に立ち上がって言った。
 「御供致しましょう。」

sec.66 - 灰色ビー玉

2018/06/16 (Sat) 16:09:05

 サラダス公国、城塞都市ナイトメア。
 同都市にレッドアップルバンドの野外公演が迫る。
 いつもは高い壁と門に囲まれて、閉鎖的な雰囲気の漂うナイトメアでも祭りの前となると、多少慎ましくはあるが、その日を心待ちにしているのが見て取れるぐらいには町に変化が見られる。
 ブリュンヒルデ曰く、経済効果は上々であるとのこと。

 野外公演の様子は要塞から発進した飛行ドローンが上空から空撮し、場内の様子を撮影する数台のカメラと連携、要塞内のライブビューイングにてその様子を臨場感溢れる映像でお送りする予定。
 また、メインステージより離れた位置に設置されたサイドステージでは何故かペン十郎のヒーローショーがライブと同時に開催されることになっている。
 場所がサラダス公国内というのもあって、ここから先は究極帝国領、住民にはペン十郎の受けもいいので、こういう事になった。


 ヒーローショーをやるというお鉢が回ってきたアルバトロス騎士団はてんやわんやだ。
 スライムとヒロシの間で意見が別れた。
 誰が進行役のお姉さん枠をやるか。
 そもそもヒーローショーに進行役のお姉さんが必要なのか。
 「却下で。ナイトメアのいたいけな子供たちの情操教育によくありません。」
 ヒロシは力強く言った。
 「では、エクレアさん以外に適任者がいると?まさか、貴方がやるとでも?」
 スライムは言った。
 「やるわけないでしょう。そもそも、ヒーローであるペン十郎が目立つショー何ですからエクレアさんが出ていくと趣旨が違って来てしまうんですよ。」
 ランクはテーブルの上でぐでっとしながら言った。
 「確実にその年頃の子供の性癖を歪ませるやろなぁ…。」
 スライムはタンッとテーブルの上に手を置きながら言った。
 「ナイトメアしいてはサラダス公国の未来…それが歪むことに貴方は責任が取れますか!」
 ヒロシは崩れ落ちて片膝をついて呟いた。
 「今回は俺の完敗ですね…。おふざけで実害が出てはいけない。これは鉄則です。」
 その様子を見ていたエクレアが言った。
 「何で俺、映像災害扱いされてるんだろう…。」
 ランクがエクレアを見ながら言った。
 「そら騎士団の色欲担当やからやで。魔獣ヌメの怠惰、マックスの暴食、アンタが色欲。」
 エクレアが焦りながら言った。
 「ちょっと待って、どの辺が?」
 ランクが片目を光らせながら言った。
 「存在が。」
 存在がエロい物体を子供の前に出すわけにもいかないので、普通のヒーローショーをやることになった。


 一方、フェンリルに連れられて久しぶりの公国を見て回っていたカクタスキッドの前に、スーツに身を包んだもう一人のフェンリルが姿を現した。
 もう一人の彼女の首には小さな黒い水晶がぶら下がっていた。
 カクタスキッドは驚きながら言った。
 「君は双子だったのか。」
 フェンリルはふふふと笑うと言った。
 「違うぜ。」

 魔物の中には高度なレベルに達した事により仮初めの体を作り出せるようになった個体が存在する。ブラックスカルなどがその例である。
 サラダス幹部連は全員が仮初めの体を生成する事ができ、こうして国内の事務仕事用に一体常駐させているのだ。
 スーツ姿のフェンリルの方がペンダントにしてある黒い水晶を持ち上げながら言った。
 「事務仕事ができりゃあいいから、これくらいの魔素があれば戦闘用ではない体を維持するには十分なんだ。」
 カクタスキッドは感心しながら言った。
 「そうなのか…。」
 彼はそんなフェンリルの意外な一面を知ったのだった。

 スーツ姿のフェンリルは通りすがりだったので、そのまま別れて事務仕事に戻った。
 カクタスキッドは疑問に思ったことを口にする。
 「私たちはBOSSとしての核を持つから、こうして魔素が薄い地上に存在し続けられるけど、やっぱり君たちの中にも核があるのかい?」
 フェンリルは少し考えてから答えた。
 「ドートンの奴が言うには、適合する人間と混ぜられた事によって、こっちの世界にそういう生き物であると認識させて維持コストを払わなくて良くするものらしい。」
 カクタスキッドは首を傾げた。無理もない。
 フェンリルは言った。
 「魔物は魔界からやって来るだろう?この世界に魔物が存在し続けるには高濃度の魔素が必要で、人間と混ぜることで魔界から来たという縛りから抜け出す技術らしい。」
 思ったより難解なことをしているようだ。

 カクタスキッドは言った。
 「君の仮初めの体の方には維持コストがかかっているのは何でだい?」
 フェンリルは言った。
 「そりゃあ、あっちの体は魔素を…この場合は魔力か。それを使って一からこの世界に作り出してるからだよ。世界に家賃払えって言われてるわけだな。」
 等など時折、お勉強を交えつつ二人のサラダス公国巡りは続いた。

sec.67 - 灰色ビー玉

2018/06/17 (Sun) 01:02:06

 城塞都市の大門が開き、ゆっくりとレールの上を移動要塞が進む。
 天井甲板での野外ライブが始まった。
 前半一時間、休憩時間30分、後半一時間を予定している。
 休憩時間の30分の間に、アルバトロス騎士団によるペン十郎ヒーローショーをサイドステージで行う。


 その頃、究極帝国の基地から巨大な鳥の姿をした飛行兵器が静かに離陸した。
 先手必勝奇襲強襲。
 究極帝国でも数の多くない幻想帯内で飛行可能な兵器ビッグバード。アンバー学園周辺に黒い水晶をばらまいたのもこの兵器だ。

 勝つためにはこのタイミングしかないと功を焦った軍部が、究極帝国内の有力者の後ろ楯を得て、この兵器を発進させたのだ。

 より確実な勝利をものにするためには、この動きに合わせて空中要塞ヘカトンケイルを動かすべきである。
 だが、ヘカトンケイルは周辺の反乱分子に睨みを利かせる役目がある。持ち場を離れることは相応の危険を意味した。

 結局は二択だ。
 より確実にアルバトロス騎士団とそれに与したサラダス公国に打撃を与える方を選ぶか、周辺に潜んでいるであろうリベリオンズチックを抑え込むことを優先する安全策を取るか。


 空を裂き、真っ直ぐに目的地を目指すは飛行兵器ビッグバード。その動きに呼応して空中要塞ヘカトンケイルが動き出した。
 守りより攻めを優先した判断だ。


 サラダス公国の中に一本の木が生えている。
 その木の天辺に巨大な鳥が巣を作っている。その名も無敵ペングィン・イワトビ・ドゥ。
 陸海空を制するように進化した青い巨鳥である。
 通称ドゥは、自分の巣に入って来た来訪者をその澄んだ瞳で静かに見つめた。
 黒いピルボックス帽に同色のマントを羽織った男が空中を滑るように入って来た。
 黒い服装の男コード0は言った。
 「貴様の力を借りたい。」
 その後に続いてぞろぞろと人がやって来た。
 ジョン・スミス、ヒロシ・サトー、エクレア・ティラミス、弟子と師匠、ミイラ。
 ヒロシは集まった面子を見ながら言った。
 「相手は飛行兵器と要塞ですけど、これで戦力は足りてる?」
 黒い服の男コード0は言い切った。
 「俺一人で十分だ。」


 日が落ちて、空が紫色に染まる頃。
 ライブでナイトメアが盛り上がる中、巨大な木から鳥目など物ともせずに空を飛ぶペングィンが、背中にアルバトロス騎士団を乗せて、静かに大空へ飛び立った。


 ドゥは雲を切って真っ直ぐに飛ぶ。
 ジョンは鳥の背に乗りながら言った。
 「この鳥はビッグバードに向かって飛んでるのかい?」
 コード0は言った。
 「巣を荒らそうと向かってくる相手がいる。貴様がこいつならどうする。」

 数分後。
 青い巨鳥ドゥは、飛行兵器ビッグバードと遭遇した。
 同兵器内、コントロールルーム。
 真っ直ぐにこちらに向かって来ている巨鳥を発見した部隊長が言った。
 「でかい焼き鳥にしてくれるわ。」
 攻撃準備命令を送る。
 飛行兵器ビッグバードがその身に搭載した魔術兵装をドゥに向けて構えた。

 だが、その兵器が巨鳥に向けて発射されることはなかった。
 瞬間移動と影渡りでコントロールルームに侵入したコード0と弟子が同ルームに居た兵士を瞬く間に無力化したのだ。
 弟子に利き腕を決められて動けない兵士長は言った。
 「バカな!瞬間移動などと…!この兵器内にその手の転移は不可能なはずだ!」
 でなければ、ほとんどの兵器をコクピットに入り込んで無効化してしまえる。現代兵器が猛威を振るえない理由の一つでもある。

 掌握領域と呼ばれているそれは、己のスキルが影響を及ぼせる範囲の目安となる。
 掌握領域はより強い使い手であれば基本上書きが可能だ。この場合、兵器内にワープ禁止の掌握領域が存在していたわけだが。
 コード0は言った。
 「イワトビ・ドゥのスキル無敵で掌握領域を上書き、無効化した。」
 隊長は取り乱して言った。
 「バカな!そんな真似が」
 言い切る前にコード0が手刀で兵士長の意識を断った。


 空中要塞ヘカトンケイルが真っ直ぐにサラダス公国を目指して進む。
 そんな要塞の管制室に危険を知らせるアラートが鳴り響いた。
 同じくサラダス公国領内に進軍中だった飛行兵器ビッグバードが進路を変えてこちらへ突っ込んで来るというのだ。
 通信機の使えない幻想帯内であるのも手伝ってか状況判断が十分ではなかった。
 決断するのに数秒の迷いが生じた。
 最高速に達していたビッグバードにはその隙だけで十分だった。
 まったく速度を落とさなかったビッグバードは質量の爆弾と化して空中要塞ヘカトンケイルに直撃した。直後、深々と要塞に突き刺さったビッグバードが要塞内で爆発、要塞は致命的な損傷を受けて、ゆっくりと墜落し始めた。


 その様子を巨鳥ドゥの背中から眺めつつヒロシが言った。
 「ほんとに一人で十分だったな。」
 巨鳥の背中に影渡りと瞬間移動で弟子とコード0が帰還した。
 コード0は言った。
 「今から帰ればライブのフィナーレには間に合うだろう。」
 作戦開始からたった数時間の幕引きであった。
 この戦いは後に第二次決戦と称される事となる。

 究極帝国は貴重な飛行兵器を一つ、三つあるヘカトンケイルのうち一つを失うこととなった。
 不思議なことに人的被害は一切発生せず、同兵器や要塞に乗り込んでいた兵士は気がつくと全員が草原の上に寝かされていたという。

 第一次と違って激しい被害の出た第二次決戦であったが、無血という意味では同じだった。


 今回の戦いを経て、究極帝国はアルバトロス騎士団やそれに与した国々の扱いを見直さざるを得なくなった。

sec.68 - 灰色ビー玉

2018/06/17 (Sun) 15:56:51

 サラダス公国でのライブを無事に終え、帰宅後のニュースを見て、その影で第二次決戦が行われていたことを知った一同はジャッジ・ザ・アルバトロスに詰め寄っていた。

 現在位置、移動要塞一般解放区宿泊施設。
 簡単に言えばホテルの中。
 ランクが言った。
 「どうしてや、だんちょ。ウチらはそんなに足手まといか。」
 ジャッジは言った。
 「サイドステージでヒーローショーをやるのも立派な任務だ。お客さんには好評のようだったしな。」
 そもそもジャッジ本体は第二次決戦に加わっておらず、ヒーローショーのペン十郎役をこなしていた。
 ジョンがフォローする。
 「情報がこちらに入ってから、戦闘に移るまでの猶予がなかった。実際に全員に周知している時間はなかったように思うよ。」
 ジロウが悔しそうに言った。
 「それは別にいいっす。だけど、彼は一体何者っすか。伝説のコード0を名乗るその男。」
 ジャッジは言った。
 「ゼロっさんはゼロっさんだ。以下でも以上でもなく、コード0だ。」
 ドートンから異論が出る。
 「待ちたまえ。本来の意味でのコード0なのか、コード0という氏名なのかで、今の発言に賛同するかそうでないかは決まる。」
 スライドはソファーで突っ伏しながら言った。
 「どーでもいいっすわ。それを言い出したら、俺たち元々レッドアップルのライブを襲撃する予定だったテロリストですしおすし。」
 レッドアップルが驚きながら言った。
 「それは本当かい?」
 コード0は無言で頷いた。
 フェンリルがスライドの上に飛び乗る。
 彼女はスライドを揺さぶりながら言った。
 「って、ことはネット上の犯行声明はお前らの仕業かぁ~!」
 スライドは揺さぶられながら否定した。
 「違うよ~。ライブ後にレッドアップルちゃんに青い薔薇は差し上げたけどね~。」
 カクタスキッドがスライドの上に乗っかったフェンリルを抱え上げてから床に下ろした。
 レッドアップルは言った。
 「あの薔薇綺麗だから部屋に飾ってるよ。」
 スライドは引き続き突っ伏しながら言った。
 「さいですか。」

 スライムがデュラハンの姿をまじまじと見ながら言った。
 「自然発生的に私たちとほぼ同じ条件となった個体ですか。珍しいですね。」
 デュラハンは照れながら言った。
 「条件としては半魔に近いらしくて、いつも身に付けている黒い鎧で魔素を補給してますの。魔素が足りないとヘロヘロになって大変ですのよ。」
 アルカードが後ろから近づいてデュラハンの首を持ち上げた。胴体と首の接続部から青白い炎のようなエネルギーが出ている。
 デュラハンはその状態で話す。
 「どういう理屈かこの状態でも物理的には繋がってまして、こうして声も出せます。」
 アルカードは言った。
 「何だかエロい。」
 その場に居た三名の頬が赤く染まった。

 わちゃわちゃした一同から少し離れた窓際にオーガは座っていた。
 ロナ・ブラッドが近寄りながら言った。
 「どうしてテロを止めた?巡り合わせがよけりゃアンタと俺が戦ってたかもしれねぇ。」
 オーガは言った。
 「必然か偶然か、トラブルが重なっちまってね。それと、あたいはもうアンタたちと事を構える気はないよ。」
 ロナ・ブラッドは肩を竦めてから近くの座椅子にどっかりと腰を下ろしながら言った。
 「そいつは、残念だ。」
 オーガは少々呆れながら言った。
 「アンタもあたいが鬼だから、バトルジャンキーだと思ってるんじゃなかろうね?」
 ロナは目を見開いて言った。
 「違うのか…?」
 オーガは顔を手で塞ぎながら言った。
 「勘弁しとくれよ。」

 新たに仲間に加わった一同と親睦を深めつつ、今宵の夜は更けていった。

 ヒロシが言った。
 「所で、彼…いや、彼女は何者なんだろう。」
 ピンク色のリザードマン、着ぐるみに見える。
 ナイトメアでの公演の直前、キーボード役が突如として腹を下し、スタッフ一同すわ鬼門の発動かと騒いでいた所に、ピンク色のリザードマンが颯爽と現れ、彼女は見事にキーボードを弾いて見せ、そのままライブにまで参加したのだった。
 デュラハンは言った。
 「私と一緒で、何処からか拾われてきた子だから、よくは知らないわね。」
 オーガも言った。
 「あたいもよくわかんないね。」
 素性がよくわからないメンバーがいるのは今に始まったことでもないので、実害が発生しない限りは本人に好きにさせておく事になった。

sec.69 - 灰色ビー玉

2018/06/18 (Mon) 00:20:09

 サラダス公国での野外ライブも終わり、翌日。天井甲板では、昨日に引き続き会場の撤去が行われている。
 一般解放区のホテルで宿泊していったお客さんが大門から城壁内へ帰っていくのを見送ってから、キラリが言った。
 「お客さん全部帰ったかしら?」
 隣で控えていたユキコが言った。
 「ヌメの報告によると今ので全員です。」

 キラリが周辺の様子を確認してから、無線機で連絡する。一般区から外へ出入りするために開いていた搬入口がゆっくりと閉じていく。


 一般区の一角にある栗原のオフィスでとある交渉が終わった。
 彼女は隣で不慣れな事務仕事を手伝わされている魔術師に言った。
 「例の件、許可取れたわよ。」
 魔術師は言った。
 「…昨日の今日、要塞落とされたばかりだぞ。まぁ、許可取れたのならそれに越したことはないが。」
 栗原はにこっと営業用の笑顔を浮かべると言った。
 「貴方方の側でやってもらえるなら、それに越したことはない。本来は我々でやるべきことであるがよろしくお願いします。だってさ。」


 天井甲板での会場撤去作業の邪魔にならないようにゆっくりと要塞はレールの上を滑っていく。しばらくすると、キラリの森へと入った。
 鬱蒼とした森の中を進む。
 デュラハンは思わず作業の手を止めて、甲板から見渡せる景色を眺めた。
 彼女は言った。
 「徒歩で森を抜けた際は景色を楽しむ余裕などありませんでしたが…。」
 なかなかどうして美しい森だろうか。
 現世と幽世の境というのも頷ける光景だ。

 森の中をしばらく進んでいるうちに会場の撤去作業は終了し、甲板の上にはそのまま周辺警戒の任務につく人員だけ残った。


 徒歩で突破するには相応の日数が必要なキラリの森であるが、レールの上を一定の速度で進む移動要塞は半日ほどで走破した。

 これより広がる光景は見渡す限りの草原。

 その草原をしばらく進んだところでつい先日に陥落させた空中要塞が無惨な姿で草原のど真ん中に墜落していた。


 あの世から帰還してからしばらく、ユニーは栗原からある指令を言い渡されていた。
 要塞内の更なる空間拡張である。
 だが、今回は前回と違って急を要するに任務ではないので、ゆっくりと進めるように言い渡されている。
 今回、拡張を開始したのは資源置き場だ。


 栗原が皆を集めて言った。
 「野外会場の撤去作業が終わって早速の所だけど、次は空中要塞ヘカトンケイルの解体作業をやるわよ。」

 ドートン・クヲン、マックス、弟子に先発隊として先行させ、ヘカトンケイル要塞内に残っている使えるものとそうでないものを仕分けさせ、残りは解体分解し、資源として貯蔵しようという一大作業である。
 先ほど、オフィスで栗原が究極帝国相手に交渉していたのはこの件の事であった。

 既に先発隊はこの場には居らず、大量のヌメが必要ないと判断された部分を分解して要塞内に運び込み始めていた。

 栗原は言った。
 「貴方たちがやることは主に三つ。一つ、要塞に潜って先発隊が使えると判断したものを持ち帰る。二つ、要塞内に残存していると思われる黒水晶の破壊。コントロール下に無い黒水晶は危険なだけよ。見つけ次第破壊して。三つ、ヌメたちと一緒に要塞の解体および資源の運搬ね。運ぶだけなら大した知識も要らないでしょうし、他の任務より危険が少ないと思うわ。以上、三つの事を己の力量と相談して行ってもらうわよ。」
 三つの作業以外で自分が能力を発揮できると思った仕事がある場合は自己申告で。
 また、どの作業に当たる場合にもチームを組むことを推奨した。

 現在進行形で分解されて行っているが、要はダンジョンアタックである。

 レッドアップルバンドやその運営スタッフは強化スーツを着用しているとはいえ一般人なので、次の公演に向けて英気を養ってもらうために一般解放区で休養してもらう。
 レッドアップル自身は本人の希望によりダンジョンアタックに参加することとなった。


 ランクが言った。
 「ジロウはヌメたちと解体作業か?」
 ジロウは首を横に振って言った。
 「こういう時にこそ、積極的に経験を積むべきだと俺は思う。」

 他のメンバーも誰と組んで行くのかの相談を始めた。
 ミイラが呟く。
 「ふふふ、早くダンジョンに入って弟子さんと合流しなくては…ふふ…ふふふふ…。」
 その様子を見ていたフェンリルが近くを通りかかったスライドに耳打ちした。
 「なぁ、ミイラの奴、ちょっと様子がおかしくないかな?」
 スライドはそう指摘を浮けてミイラを見た。
 確かに、今の彼女は何処か上の空というか、危うい気配すら感じる。
 スライドは言った。
 「誰か見ておく必要がありそうだなぁ。」

 ロナ・ブラッドが意気揚々と言った。
 「久々に暴れられそうな案件だァ。」
 ヒロシが近づいて囁いた。
 「おっと、そうでもないぞ。潜った先のダンジョンから生きているアイテムを持ち帰る必要がある。」
 ロナは肩を落として言った。
 「回りの被害を考えずに、とはいかねぇか…残念だぜェ。」

 オーガが柔軟体操しながら言った。
 「ダンジョンアタックか、腕がなるね。」
 デュラハンは呟いた。
 「ヌメ様方と一緒の作業をしようかしら。」
 オーガは少々呆れながら言った。
 「アンタねぇ、そんなんじゃ何時まで経っても一人前になれはしないよ。」
 デュラハンは言った。
 「うぅ…わかっておりますわ。とにかく、誰かお強そうな方とご一緒できればいいのですけど…。」

 そうこうしているうちに日が暮れて夕方になった。
 一日目のダンジョンアタックの開始は黄昏時となった。

sec.70 - 灰色ビー玉

2018/06/18 (Mon) 16:46:46

 キラリの森を抜けた先に広がる草原。
 そこに墜落した空中要塞を解体して資源として溜め込むのが今回の狙いだ。

 日暮れと共に作業を開始したアルバトロス騎士団。
 共に行動する者を決め、次々に解体中の要塞へと乗り込んでいく。
 「抜かったわね。先発隊に瞬間移動を使える役として弟子さんを配置したのは失敗だったわ。」
 魔術師は言った。
 「だが、コード0を配置した場合も、それはそれで厄介だぞ。ドートンなら間違いなく気づく。」
 栗原は首を横に振って言った。
 「博士ならいずれ気づくわ。それに下手な嘘はすぐにあばかれるものよ。」
 今度は魔術師が小さく首を横に振ってから言った。
 「嘘ではないさ。…嘘にはさせない。彼はコード0だ。そうでなくてはならない。」
 栗原は無言で魔術師を見定めるような視線を送った。


 究極帝国による、あのタイミングでの攻撃は決して悪いものではなかった。
 だが、アルバトロス騎士団にはそれを察して撃退できるだけの準備が整っていた。

 仮に本土の防衛や国内の世論など気にせず、この時点で究極帝国が総攻撃を開始していたら、アルバトロス騎士団そのものは残っても、それに与した国々は全て灰と化していただろう。
 それは、アルバトロス騎士団にとって敗北そのものと言える結果だ。
 だが、現実的に動かせたのは飛行兵器と要塞が一つずつ、それでも国一つに大打撃を与えるには十分な戦力だったはずだ。


 要塞中央部。
 飛行兵器ビッグバードが突っ込んでいって盛大に爆発四散した地点だ。
 要塞として重要な部分が、ここに集められており、そこに的確に致命的な攻撃をされたのが空中要塞の死因。
 ドートンはそこを見渡しながら言った。
 「ビッグバードの部品は残っていないだろう。最高速で突っ込んでから爆発したのだ。要塞の様子を見ればわかる。」
 弟子は言った。
 「貴重な飛行兵器の部品が全て、か…。」
 マックスが辺りを見渡しながら言った。
 「品質次第だが、下手な国家予算がその一瞬で吹っ飛んだのだ。ロナ辺りが聞いたら喜びそうな話だ。」
 ドートンは先頭を歩きながら言った。
 「空中要塞が墜落したのも、その時のダメージで中枢が損傷したからだ。だが、損傷だ。ビッグバードのように全壊したわけではない。おそらく、探せばまだ使える部品はある。」
 弟子は首を傾げて言った。
 「下手をすると軍事機密に当たる部品もあると思うのだが、よく許可が出たな。」
 マックスは言った。
 「この辺は既に究極帝国内だが、その中に墜落した要塞を放置していて、世論が悪くなるよりは多少の機密を売り渡してでも瓦礫の除去を優先した。そんなところだろう。」
 機密より世論、究極帝国が帝国制民主主義たる所以はこの辺りにあるものと思われる。


 ダンジョンアタックを開始する面々はヌメが解体した要塞の部品を運搬している道を遡って、重力を基準とした時に上に当たる部分まで登ってきた。
 大空は既に紫がかって来ており、すぐにでも夜が来そうだ。
 ヌメたちの作業現場には魔術による照明がつけられており、解体、運搬作業が夜通し行われるであろうことを予感させた。

 ジロウがその様子を見ながら言った。
 「ここから先はチームごとに自由なんだろ?」
 ジョンは頷いてから言った。
 「時間帯は夜だ。夜の魔物には気をつけること。それと、おそらく敵は魔物だけに限らないはずだ。チームの仲間としっかり連携を取るんだぞ皆。」
 ジョンの言葉に皆が頷いた。

 ヌメの作業はアイスクリームを上から舐めとかすように墜落した空中要塞を削って行っていた。既にやたら分厚い外壁部分は削られており、上に当たるブロックの部屋がちらほらと見えるようになっていた。

 アルバトロス騎士団はチームごとに別れると、それぞれ見繕った侵入口から要塞内へと入って行った。
 その際、近くの現場で作業中のヌメに挨拶していくのを忘れてはいけない。
 彼らの解体作業に巻き込まれて思わぬ怪我を負わないようにするためだ。

 ジロウ、アルカード、ロナ・ブラッドのチームで要塞内へ踏み込む。上から、ヌメたちが要塞を解体している作業音が聞こえてくる。
 強化スーツのヘルメットに照明機能があるので、それを使って前方を照らして進んでいく。ヘルメットは透明化してあるので、なにもない空中から光が出ているように見える。
 ジロウは思わず声をあげた。
 「うー、どきどきしてきたぁ。」
 アルカードは呟いた。
 「心配はいらない。私とロナがいる。」
 ロナ・ブラッドは目をギラギラさせながら言った。
 「戦闘は任せろ!ジロウ、お前には期待している。」
 主に非戦闘的な働きで。
 三人はロナを先頭に、要塞内をずかずかと進んでいった。

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